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大震災で日本経済は大変なのに、どうして円高になったの?

円高

Q:東日本大震災直後に円は高くなりました。日本経済が危ぶまれるような事態になれば円安になってもおかしくないのに、なぜ円高に振れるのでしょうか?

A:経済の教科書的に言えば、通貨は経済体力を反映するはずです。つまり大震災で経済の先行きが不確実になった日本の通貨「円」は弱くなるはずですが、現実の世界は教科書では説明できないのです。

外国為替相場市場で、たくさんの取引をしている銀行や生命保険会社などの機関投資家は通常、金利が低い通貨でお金を借りて、もっと利回りが良い通貨で資金を運用しようとします。その金利差で利益を出そうとするためで、これを「キャリー取引」と呼んでいます。

日本では日銀が金利をできる限り低く抑えようとする「ゼロ金利政策」が続いており、世界最低の金利水準が続く円で資金を調達して、ドルやユーロなどに両替した上で米国債などに投資する取引が多く行われています。
日本で起きた東日本大震災は未曾有の損害をもたらし、福島第1原発事故も深刻なものでした。世界経済は先が見通しづらい状況になりました。

それで投資家らは「とりあえず取引を手じまいして様子を見よう」と動きました。高金利通貨での資金運用をひとまずやめて、資金を円に戻そうとしました。こうした「リスク回避の円買い」が大規模に起きたことが、円高を誘導したのです。

震災発生以前は、将来は日本経済の先行き不安を背景に、円安方向に動くと予想していた個人投資家が多かったようです。

彼らはインターネット取引などをする際に投資会社と、一定の金額の損失を被った段階で取引を解消し損失額を確定させなければならない、という取り決めを結んでいます。損失が際限なく膨らむのを防止するのが狙いで「損切り」といわれます。

円が戦後最高値の1ドル=76円25銭をつけた3月17日には、相場が大きく円高方向に動いたため多くの個人投資家がこの損切りを強いられました。

損切りに当たって個人投資家は外貨を売って円を買い戻す取引を行ったことになります。これが円高に拍車を掛けました。

この時間帯は日本では未明から早朝にかけてで、外為市場はシドニーなどしか開いていませんでした。参加者は少なく、ちょっとした資金の動きでも相場が左右されやすい状況でした。

市場では欧米の投機筋が、個人投資家の損切りを誘発しようと取引が薄い時間帯を狙って円買いを仕掛けたとの見方もささやかれました。(共同通信経済部記者)


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